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福島地方裁判所 昭和50年(わ)85号 判決

主文

被告人を懲役一〇月に処する。

ただし、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、右猶予の期間中被告人を保護観察に付する。

押収してある覚せい剤粉末一・三〇六二グラム、同粉末九・四五六グラム、及び同粉末〇・一八グラムを没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、法定の除外事由がないのに、

第一  昭和五〇年五月八日午前一時ころ栃木県佐野市七軒町二二一四番地野沢文夫方において、同人から塩酸フェニルメチルアミノプロパンを含有する覚せい剤粉末約一二グラムを譲り受け

第二  同月九日午前一時ころ秋田県大曲市福見町八番二六号の自宅において、フェニルメチルアミノプロパンを含有する覚せい剤粉末若干量を水に溶かして自己の身体に注射し、もって覚せい剤を使用し

第三  同月九日午後五時五〇分ころ福島市飯坂町字古舘四の一三番地所在の飯坂警察署において、塩酸フェニルメチルアミノプロパンを含有する覚せい剤粉末一・五グラム(押収してある覚せい剤粉末一・三〇六二グラムは鑑定に使用した残量)を着用していた靴下の内側に、同様の覚せい剤粉末九・七四四グラム(押収してある覚せい剤粉末九・四五六グラムは鑑定に使用した残量)を被告人所有の普通乗用自動車の右前ドアの内部にそれぞれ隠匿してこれらを所持し

第四  同月一一日午前九月五〇分ころ秋田県大曲市の前記自宅において、塩酸フェニルメチルアミノプロパンを含有する覚せい剤粉末〇・一八八グラム(押収してある覚せい剤粉末〇・一八グラムは鑑定に使用した残量)を所持し

たものである。

(証拠)≪省略≫

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為は覚せい剤取締法四一条の二第一項二号、一七条三項に、同第二の所為は同法四一条の二第一項三号、一九条に、同第三、四の各所為はいずれも同法四一条の二第一項一号、一四条一項にそれぞれ該当するところ、以上は刑法四五条前段の併合罪なので、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一〇月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右の刑の執行を猶予し、なお同法二五条の二第一項前段により被告人を右の猶予の期間中保護観察に付し、押収してある主文第三項掲記の覚せい剤粉末一・三〇六二グラム及び同粉末九・四五六グラムは判示第三の罪に係り、同じく覚せい剤粉末〇・一八グラムは判示第四の罪に係り、いずれも被告人が所有するものであるから覚せい剤取締法四一条の六によりこれらを没収することとする。

なお、弁護人は、被告人は判示第二の罪につき官に発覚前自首したものであるから、その刑を減軽するのが相当である旨主張するところ、≪証拠省略≫によると、被告人は同月九日午前二時ころその所有の普通乗用自動車を運転して秋田県大曲市の自宅を出発し、栃木県佐野市に向う途中、同日午前七時三〇分ころ飯坂警察署中野駐在所前に差しかかった際、同所に警察官が佇立しているのを認め、同警察官は真実は交通監視の職務に就いていたに過ぎなかったのに、被告人は判示第二の所為が既に露見してしまい、右警察官が自己を逮捕しようとしているものと錯覚し、このうえは右犯行を申告して右警察官の処置にゆだねるほかないものと観念して直ちに減速徐行し、右走行を不審に思い停止を命じた右警察官の指示に従って停止したうえ、被告人の右犯行については全く知るところのない右警察官(司法警察員)に対し自ら進んで「覚せい剤を射ってきた。」旨申告し、続いて右駐在所において判示第二の所為の概要を供述し、これによりはじめて右犯行が発覚するに至ったことが認められる。しかして、刑法四二条一項にいわゆる自首が成立するためには必ずしも真しな悔悟に出たものであることを要しないものと解するのが相当であるから、被告人の右申告は右法条にいわゆる自首に該当するものと解すべきであるが、右の経過等に照らし、法律上の減軽をするまでの要なく、量刑の情状の一として考慮するをもって足りるものというべきであるから、弁護人の右主張は結局採用しない。

よって主文のとおり判決する

(裁判官 小林隆夫)

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